8 粒子の衝突

二粒子の衝突を相対論的に考える。 その静止質量を $ m_1$$ m_2$ とし、 四元運動量を $ p_1^\alpha$ $ p_2^\alpha$ とする。 必要なときは衝突の後と前を bar を付けて $ \bar{p}_1^\alpha$ などとし、 区別する。 ある慣性系で観測したときの二粒子の全四元運動量は、

$\displaystyle p^\alpha \equiv p_1^\alpha +p_2^\alpha$ (86)

と書くことができる。 この四元運動量自信の縮約を取れば、

$\displaystyle p^\alpha p_\alpha = -\frac{(E_1+E_2)^2}{c^2} + \left(\vp_1 +\vp_2\right)^2$ (87)

と書くことがで、 これは任意の慣性系で同じ値を持つ。 非相対論的な場合と同様に質量中心(center of mass、または、zero-momentum、center of momentum)座標系 CM 系を、

$\displaystyle \vp_1 + \vp_2 =0
$

を満たす慣性系と取る。

二粒子の四元運動量が $ p_1^\alpha =\left(p_1^0,\vp_1\right)$ $ p_2^\alpha =\left(p_2^0,\vp_2\right)$ であるような慣性座標系から、 二粒子の CM 系 $ x'^\mu$ へ移すローレンツ変換 $ \Lambda_{\alpha}^{\bar{\beta}}(\vv)$ を考えると、 $ p'^\alpha = \Lambda_{\beta}^{\bar{\alpha}} p^\beta$ より、

$\displaystyle p'^0$ $\displaystyle = \Lambda_{\beta}^{\bar{0}}(\vv)p^\beta =\gamma p^0 -\gamma v_i/c  p^i = \gamma \left( p^0 -\frac{\vv\cdot \vp}{c}\right)$    
$\displaystyle p'^i$ $\displaystyle = \Lambda_{\beta}^{\bar{i}}(\vv)p^\beta =-\gamma v^i /c   p^0 + ...
...\right]p^j =-\frac{\gamma}{c} v^i p^0 + p^i + v^i \vv\cdot \vp (\gamma-1)/\vv^2$    

であるから、

$\displaystyle \vp'_1 + \vp'_2
=-\frac{\gamma}{c} \vv \left(p_1^0 + p_2^0\right)...
...\vp_2 +\vv \left\{ \vv\cdot \left(\vp_1 +\vp_2\right)(\gamma-1)/\vv^2 \right\}
$

と書ける。このとき、

$\displaystyle \frac{\vv}{c} =\frac{\vp_1 +\vp_2}{p_1^0 +p_2^0}$ (88)

とすると、 上式は

$\displaystyle \vp'_1 + \vp'_2$ $\displaystyle =-\frac{\gamma}{c}\vv \left(p_1^0 + p_2^0\right) + \frac{\vv}{c} (p_1^0 +p_2^0) + \frac{\vv}{c} (p_1^0 +p_2^0) (\gamma-1) =0$    

となる。

Eq.(88) は非相対論的極限で非相対論的な質量中心の定義に一致している。 この CM 系では、

$\displaystyle p^\alpha_\alpha =-\frac{\left(E_1+E_2\right)_{\rm CM}^2}{c^2}$    

が成り立つ。 ここで CM 系から見た運動エネルギーを

$\displaystyle K_{\rm CM} = \left(E_1+E_2\right)_{\rm CM} -\left(m_1+m_2\right)c^2$ (89)

で定義すれば、 任意の慣性系で、

$\displaystyle K_{\rm CM} + \left(m_1+m_2\right)c^2 =\left(E_1+E_2\right)_{\rm C...
...pha p_\alpha} = \sqrt{ \left(E_1+E_2\right)^2 -c^2 \left(\vp_1+\vp_2\right)^2 }$ (90)

が成り立つことになる。

非相対論的極限で CM 系では、

$\displaystyle \vr = \frac{m_1 \vr_1 + m_2 \vr_2}{m_1+m_2}%%=0% \quad \Longleftrightarrow \quad
$

であるから、

$\displaystyle {\bf R}_1$ $\displaystyle = \vr_1 -\vr =\vr_1 - \frac{m_1 \vr_1 + m_2 \vr_2}{m_1+m_2} = \frac{m_2}{m_1+m_2} \left(\vr_1 -\vr_2\right)$    
$\displaystyle {\bf R}_2$ $\displaystyle = \vr_2 -\vr =\vr_2 - \frac{m_1 \vr_1 + m_2 \vr_2}{m_1+m_2} = \frac{m_1}{m_1+m_2} \left(\vr_2 -\vr_1\right)$    

と書ける。 これを元に非相対論的運動エネルギーを求めると、

$\displaystyle K_{\rm CM}$ $\displaystyle = \frac{1}{2}m_1 \dot{{\bf R}}_1^2 +\frac{1}{2}m_2 \dot{{\bf R}}_...
... -\vu_2\right)^2 =\frac{1}{2} \frac{m_1m_2}{m_1+m_2} \left(\vu_1-\vu_2\right)^2$    

となるが、

$\displaystyle \frac{1}{\mu} = \frac{1}{m_1}+\frac{1}{m_2},\quad\hbox{$\mu$ :換算質量},\qquad
\vu = \vu_1-\vu_2
$

とすると、

$\displaystyle K_{\rm CM} = \frac{1}{2}\mu \vu^2$ (91)

を得る。

ある慣性系で見たとき、 衝突の前後で四元運動量は保存されるとすると、

$\displaystyle p^\alpha \equiv p_1^\alpha +p_2^\alpha =\bar{p}_1^\alpha +\bar{p}_2^\alpha \equiv \bar{p}^\alpha$ (92)

が成り立つ。 このとき衝突の前後でEq.(88) で定義される CM 系は、この量が変化しないことが分かる。 エネルギー成分の保存則はその慣性系では次式で与えられる。

$\displaystyle \sqrt{ m_1^2 c^4 +\left\vert\vp_1\right\vert^2 c^2} +\sqrt{ m_2^2...
...ht\vert^2 c^2} +\sqrt{ \bar{m}_2^2 c^4 +\left\vert\bar{\vp}_2\right\vert^2 c^2}$ (93)

ある慣性系で見たエネルギー保存則(93) の非相対論的極限を考えると、

$\displaystyle \left(m^2 c^4 + \left\vert\vp\right\vert^2 c^2\right)^{1/2} =m c^...
...c{1}{2}\frac{\left\vert\vu\right\vert^2}{c^2} \right) =mc^2 + \frac{1}{2}m\vu^2$ (94)

であるから、

$\displaystyle m_1 c^2 + m_2 c^2 + \frac{1}{2}m_1 \vu_1^2 + \frac{1}{2}m_2 \vu_2...
...2 c^2 + \frac{1}{2}\bar{m}_1 \bar{\vu}_1^2 + \frac{1}{2}\bar{m}_2 \bar{\vu}_2^2$ (95)

となる。 また CM 系で見たエネルギー保存則

$\displaystyle \sqrt{ -p^\alpha p_\alpha}
=
\sqrt{ -\bar{p}^\alpha \bar{p}_\alpha}
$

の非相対論的極限は、Eq.(91),Eq.(95) を参考にすると以下のようになる。

$\displaystyle m_1 c^2 + m_2 c^2 + \frac{1}{2}\mu \vu^2 = \bar{m}_1 c^2 + \bar{m}_2 c^2 + \frac{1}{2}\bar{\mu} \bar{\vu}^2$ (96)

fat-cat 平成16年11月28日