2 鞍点法(method of steepest descent)

次のサブセクションで必要になる鞍点法についてまとめておく。

複素平面上の経路積分の値

$\displaystyle I = \int_{C} g(z) e^{f(z)}   dz$    

を近似的に求めることを考える。 ここで $ g(z)$$ f(z) $ は複素平面上の解析関数であり、 積分経路はその両端に於いて $ f(z) $ の実部が負の無限大となり、 積分の被積分関数が零になるように選べるか、 あるいは閉曲線に選べるものとする。 $ f(z)=u(x,y)+i w(x,y)$ と書くとき、 もし実部が複素平面上のある点 $ z_0$ で極大値をとるとすれば

$\displaystyle \del{u}{x}=\del{u}{y}=0$    

であり、従って

$\displaystyle \di{f(z_0)}{z}=0
$

となる。 ところが解析関数について Cauthy-Riemann の関係式から

$\displaystyle \dell{u}{x}+\dell{u}{y}=0
$

が成り立つので、 点$ z_0$ で例えば $ \partial^2 u/\partial x^2 >0 $(上に凸)のときは、 $ \partial^2 u/\partial y^2<0$ (下に凸)となるので、 この極大値は絶対的な極大値ではなく、 ある経路に沿って得られる極大値であるにすぎず、 点 $ z_0$鞍点(saddle point) になっている。 従って、積分を実行するに当たって必要なのは、
  1. $ u(x,y)$ が鞍点に於いて極大となるような
  2. 鞍点の近傍で虚部 $ w(x,y)$ が一定
となるように経路を選択する必要がある。 このように積分経路を選ぶことは、 鞍点 $ z_0$ 近傍の経路を

$\displaystyle z-z_0 =\delta e^{i\alpha}
$

で与えるとき(ここで $ \alpha$$ \delta$ は実数)、関数$ f(z) $

$\displaystyle f(z) -f(z_0) \cong f'(z_0)(z-z_0) +\frac{1}{2}f''(z_0)(z-z_0)^2 = \frac{1}{2}(z_0)(z-z_0)^2$ (97)

なる展開に於いて

$\displaystyle f''(z_0)(z-z_0)^2
$

が負の実数になるよう位相 $ \alpha$ を選ぶことに対応する。 このとき実数 $ t$

$\displaystyle t^2 =-f''(z_0)\delta^2e^{2i\alpha}
$

を満たすように定義すれば、

$\displaystyle t=\pm \delta \sqrt{\left\vert f''(z_0)\right\vert}
$

が得られ、 これを新しい変数として使えば、 求める積分は

$\displaystyle I \approx \frac{g(z_0) e^{f(z_0)}e^{i\alpha}}{\sqrt{\left\vert f'...
...{2 \pi}   g(z_0) e^{f(z_0)}e^{i\alpha}}{\sqrt{\left\vert f''(z_0)\right\vert}}$ (98)

で与えられる。 ここで、鞍点$ z_0$ の近傍で $ g(z)$ は十分ゆっくり変化するものとしてる。 極大値が複素平面上に複数あるときは、 積分の近似は(98)の表現の和になる。

fat-cat 平成17年1月10日