ここでは Rybicki & Lightman(1979) に従って、
一回のコンプトン散乱によって輻射スペクトルがどのような変形を受けるかを計算する。
ここで行われるのは、
観測者の系に於ける放射係数 を、
吸収された
分だけ 放射されたと考えて
なる式で計算することがあるが、
それをするのに電子の静止系と観測者の静止系との間のローレンツ変換を用いる。
ここで、
は散乱吸収係数であり、
散乱体の粒子密度を とすれば、散乱断面積とは
なる関係がある。
以下では光子は散乱を受けるだけで生成消滅はせず、
その数に変化はないものとし、
輻射場を表すのに輻射強度
を
で割った
を用いることにする。
単位体積単位振動数単位立体角当たりの光子数 を用いて、
と書けるので、
これは単位振動数単位立体角当たりの光子数流束であると考えることができる。
ここでは観測者の系を 系とし、
電子の静止系を 系とする。
観測者の系で一様で単一エネルギーの輻射場を考え、流束を
|
(50) |
で与える。
今、 軸に沿ってエネルギー
で運動している電子を考え、
この電子と一様な輻射場との間の散乱を考える。
電子の静止系 で見る入射光子の流束を
と書けば、
がローレンツ不変量となるので、
であるから、
|
(51) |
が得られる。
ここで
で の 軸(電子の運動方向)と光子の運動方向とが成す角度である。
ドップラー効果のEq.(26) を用いるとEq.(51)は
と書ける。
もし、Thomsom 散乱の微分断面積
を使い、
しかもその角度依存性を無視すれば、
放射係数 を
で割ったもの
が
|
(53) |
で与えられることになる。
ここで、電子の静止系で散乱光子のエネルギー
と入射光子のエネルギー
が等しいとする弾性散乱の仮定を行った。
は静止系での電子の数密度である。
ドップラー効果のEq.(26)より、
が取り得る範囲は
であり、このときだけEq.(53) の値を持ち、
それ以外の範囲では零であるから、
は
|
(54) |
となる。
放射係数を で割った については がローレンツ不変量となる。
観測者の系で見た は、
|
(55) |
と書け、この式が成り立つ
の範囲は、
作用させて
|
(56) |
となる。この範囲以外では値を持たないので、結局
は
|
(57) |
と書ける。
Eq.(56)は
であるから、
を で書き換えると
|
(58) |
となる。
であるから、Eq.(58) よりこの範囲外の、
従って、これを
で整理して、
のとき、
は零である。
よって
が値を持つ範囲は次のようになる。
|
(59) |
|
(60) |
これを元にEq.(55)から 、
電子の全入射方向についての値を得るために、
電子と散乱光子とが成す角度で平均の値を計算すると、
より、 の範囲がEq.(59) のとき、
となり、同様に範囲がEq.(60)のとき
となる。
今
の極限でEq.(62) は近似を用いて表すと
となることが分かる。但し である。
より詳しい計算によれば、
の極限で
|
(65) |
であることが知られている。
Eq.(61) と Eq.(62) に於ける
を用いて
をグラフにすると次のようになる。
が壱に近づくにつれ
となる粒子が増えることが分かる
(散乱を受けることで、入射光子エネルギーの何倍にもなる光子の割合が増える)。
fat-cat
平成16年11月29日