研究内容の紹介
我々のグループでは可視赤外線の波長域での観測を通して
銀河の形成・進化の歴史を明らかにしようとしています。
特に「銀河と超巨大ブラックホールの共進化」が現在の
注目トピックとなっています。銀河系の周りにある銀河
を見るとその中心には太陽の質量の100万倍から10
億倍の質量をもつ超巨大ブラックホールが存在していま
す。さらにその質量は銀河の質量と相関があり、銀河と
超巨大ブラックホールが何らかの物理的なつながりを
持って「共に進化した」と考えられています。銀河の中
心にある「小さな」ブラックホールが銀河全体の「大き
な」構造の形成・進化に影響を与えるつながりは大きな
謎になっています。我々はハワイのマウナケア山頂にあ
るすばる望遠鏡の広視野カメラ、赤外線カメラ、そして
多天体分光器を用いて銀河や超巨大ブラックホールの宇
宙論的進化を観測的に明らかにしようとしています
(詳しくは こちら
と こちら )。
遠方宇宙にあるたくさんの天体の性質を調べ、宇宙論的
進化を統計的に調べるためには多天体分光器が有効です。
我々のグループではすばる望遠鏡に取り付ける光ファイバー
を用いた赤外線の多天体分光器の開発を行っています(詳しくは
こちら)。すばる
望遠鏡で捉えた多数の天体からの赤外線は光ファイバーで
分光器に導かれます。分光器全体は大型の冷蔵庫の中に
収められていて赤外線での装置背景放射を押さえるように
−50度まで冷却されています。すでに装置の製作は終わり、
今は実際に天体の光を観測しながら装置の調整や性能の評
価を行っています。まもなく科学的観測を始めて、遠方
宇宙の銀河や超巨大ブラックホールの探査を行おうとして
います。
すばる望遠鏡の装置は完成しつつあるわけですが、それに
並行して次世代大型望遠鏡の装置の検討も始めています(詳しくは こちら )。
口径8mのすばる望遠鏡に続く大型の望遠鏡として口径30m
の望遠鏡をマウナケア山に作る計画が国際協力で進められて
おり、日本でも国立天文台を中心に検討が進められています。
われわれのグループでは地球大気の揺らぎを補正する補償
光学系を用いて多数の天体を同時に赤外線で分光観測する
装置を検討しています。そのための補償光学系の実験を物
理A棟2階の天文学専攻光学実験室で始めています。また
工学研究科のグループと共同してその中に用いる可変形鏡
の開発も進めています。この観測装置が完成すれば初期宇
宙での銀河や超巨大ブラックホールの誕生の様子が明らかに
できると考えています。
「すばる」望遠鏡の最大の特徴である広い視野の主焦点に取り付ける光ファイバーを用いた多天体分光器の開発を行っています。分光器は近赤外線の900nmから1800nmをカバーします。近赤外線の地上観測の大きな障害である夜光の輝線を除去する機構を持っています。現在最終調整のための試験観測が続けられています。2009年度から共同利用に用いられる予定です。これまでの観測装置では良く調べられなかった100億年前の銀河の統計的な観測やバリオン振動探査による宇宙の状態方程式の観測などが計画されています。装置開発に興味のある学生、新しく立ち上がる観測装置で最先端の観測をしたいという学生を募集中です。装置の詳細は こちら 。
「すばる」望遠鏡の観測所プロジェクトとして行われた「すばる」XMMニュートン深探査観測のデータを用いて、銀河中心ブラックホールの進化や銀河の進化の研究を行っています。「すばる」望遠鏡の主焦点カメラを用いて行われた広い視野の撮像データと、「XMMニュートン」X線衛星で行われたX線でのデータ、さらに「スピッツアー」赤外線衛星やマウナケアの英国赤外線望遠鏡の広い視野カメラで得られた赤外線でのデータを加えて、活動銀河中心核の探査、活動銀河中心核が付随する銀河の性質の探査、普通の銀河と活動銀河の違い、を調べています。これによって、銀河と銀河中心核のブラックホールがどのように相互作用しながら進化してきたのかを明らかにしようとしています。詳細はこちら。
「すばる」望遠鏡のもう一つの特徴である高い空間分解能での撮像を生かし、遠方宇宙にある銀河の形態(銀河の中での星の質量分布を表す)の観測を補償光学系と赤外線カメラを用いて行っています(詳細はこちら)。この研究に関連して2007年12月17日に国立天文台で記者発表を行いました。そのページはこちらにあります(日本語、英語版 )。この研究を発展させ、ジェミニ望遠鏡のレーザー補償光学装置を用いた高い空間分解能撮像観測やケック望遠鏡の面分光装置を用いた遠方銀河の力学構造(銀河の構造が回転運動で支えられているのか?速度分散で支えられているのか?)の観測も進めています。また「ハッブル」宇宙望遠鏡による観測も計画しています。将来的には現在チリにおいて建設されているサブミリ波大型電波干渉計「アルマ」による分子ガス輝線の観測へもつながることが期待されます。
2010年代の観測開始を目指して「すばる」の4倍以上の口径を持つ次世代の光赤外線大型望遠鏡計画が動いています。より遠くにある非常に暗い銀河を捉えるためにはより大きな望遠鏡を用いてよりたくさんの「光子」を集めることが重要です。「すばる」望遠鏡よりも大きい望遠鏡を用いることによって「すばる」望遠鏡では見えなかったさらに遠い宇宙にある暗い銀河を捉えることが出来るようになり、銀河の形成が起こってきた最初の時代を捉えることが出来ると期待されています。ここではその中の一つである30m望遠鏡に対して遠方銀河を観測するために、赤外線の多天体分光器を提案しています。30m望遠鏡の性能を引き出すためには補償光学系が必須で、多天体補償光学系の実証実験を始めようとしています。これから立ち上がろうとする装置開発計画に積極的に参加する学生を募集中です。「銀河の果て」を見る観測装置を作りませんか?詳細は こちら 。
昔の研究内容の紹介
博士論文の前後は世界で始めての硬X線での撮像衛星「あすか」X線衛星の探査で見つかったX線源の可視同定観測を行っていました。これによって硬X線での宇宙背景放射の起源が隠されたAGNを起源にしているということを世界で始めて実証しました。博士論文やその頃に書いた解説記事のリンクをここに置いておきます。
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