TMT-AGE project : TMT Analyzer for Galaxies in the Early universe
宇宙初期銀河分析装置
Thirty Meter Telescope (TMT) 30m 望遠鏡での多天体補償光学系と多天体分光器
最近の宇宙観測ではすばる望遠鏡をもってしても分光観測によって正体を明らかにすることのできない宇宙初期の銀河が多数見つかっています。30m望遠鏡はこのような銀河の「正体」を明らかにすることを一つの目的としすばる望遠鏡の次の世代の望遠鏡として検討が進められています。我々のグループではこの30m望遠鏡に、国立天文台の補償光学チームや東京大学の面分光チームと協力して赤外線、多天体面分光、多天体補償光学、観測装置を実現しようと基礎実験をしています。
補償光学は地上からの天体観測の際に問題となる地球大気中の温度むら(屈折率むら)による天体からの光の位相の乱れを、波面センサーを用いて測定し、可変形鏡で補償しようというシステムです。補償光学による星の像の補正シミュレーション計算結果を下に示します。
左から30m口径、マウナケア山頂を仮定して計算された波面、それに対する64x64素子の可変形鏡での補正、補正後の波面、それで構成されるPSFとなっています。0.000s は補正が効いていないところからスタートしています。星の像がシステムに引き込まれ、その後補償光学が働いて一番右に示すPSFがシャープになります。
我々は特に数密度が低く、暗い宇宙初期にある銀河を効率的に観測するために、広視野での多数の天体の同時観測を可能にする補償光学を検討しています。鍵となるのは広い視野の中の多数の天体に対して同時に補償光学を効かせる多天体補償光学です。その概念図を下に示します。
従来のシステムでは一つのガイド星からの情報を用いてクローズループで可変形鏡の制御を行います(左の写真は現在稼働中のすばる望遠鏡レーザーガイド星の様子)。このとき用いるのはガイド星から望遠鏡までの光路でのさまざまな高さで起こる波面の位相ずれ(水色の波線)を積分した位相ずれ(黄色の波線)の情報です。可変形鏡を通した後の位相ずれの情報を波面センサーで測定し、可変形鏡にフィードバックします。右側の多天体補償光学系では複数のガイド星からの情報を合わせることで大気揺らぎによる位相ずれの高さ方向の構造を分解して解釈します。どの高さでどのような形の位相ずれが起こっているかを推定します。これによって方向の違うそれぞれの天体に対してそれぞれの光路で積分した波面を推定することが出来ます。これはスキャンで用いられるコンピュータトモグラフィー(CTスキャン)と似た原理を用いているのでトモグラフィックな波面推定と言います。そのようにしたそれぞれの天体に最適化した補正をそれぞれの天体に設けた可変形鏡で補正します。これによって広い視野の中の多数の天体に対して同時に回折限界に近い空間分解能で観測することが可能になります。
このようなシステムを実現することで宇宙初期の多数の銀河の「正体」を明らかにすることが出来ると考えています。30m望遠鏡でこのようなシステムを実現するためにはいくつかの技術的ブレークスルーが必要になっています。このシステムの実現に向けて、我々のグループでは (1) トモグラフィーによる大気揺らぎの空間構造の推定、(2) 補償光学系の開ループ制御、(2) 大ストローク多素子小型可変形鏡の開発、を行っています。
これまでの実証試験観測や検討結果を受け、2016年度からはすばる望遠鏡でのレーザートモグラフィー補償光学の実証試験を目指した開発をキックオフしました。この実証と科学的観測を通じて多天体補償光学の有効性を示し、30m望遠鏡の次世代装置としての実現を目指しています。この研究に興味のある人は秋山までご連絡ください。これまで以下のように検討を進めてきました。
- 2020年度もすばる望遠鏡でのレーザートモグラフィー補償光学用のトモグラフィー波面センサーの製作が進みました。飯塚悠太君が補償光学系のチップチルト補償の制御について修士論文を取りまとめました。
- 2019年度もすばる望遠鏡でのレーザートモグラフィー補償光学用のトモグラフィー波面センサーの開発を進めています。RAVEN波面センサーデータを用いたトモグラフィー推定の精度評価が井上欣彦君の修士論文として、波面センサーデータを用いた大気揺らぎプロファイル測定の提案が大金原君の修士論文として、焦点面像を用いた波面揺らぎの推定法の提案が大本薫さんの修士論文として取りまとめられました。
- 2018年度はすばる望遠鏡でのレーザートモグラフィー補償光学用のトモグラフィー波面センサーの開発を進めています。浜松フォトニクス sCMOS の検出器読み出しの評価が櫻井大樹君の修士論文として取りまとめられました。
- 2017年度はすばる望遠鏡でのレーザートモグラフィー補償光学用のトモグラフィー波面センサーの光学設計が進みました。渡邉達朗君の修士論文として取りまとめられました。
- 2016年度はすばる望遠鏡でのレーザートモグラフィー補償光学の実証試験を目指し、開発をスタートさせました。特にレーザーガイド星用の波面センサーの設計・試作および開ループ補償光学の試験を行いました。(打ち合わせ資料はこちら ただし関係者のみ)。
- 2015年度はすばる望遠鏡での多天体補償光学の実証試験 RAVEN での試験観測を中心に行いました。この成果を受けて大野良人君が博士論文をまとめました。また RAVEN のデータに基づいて山崎公大君が修士論文をまとめ、地表層補償光学の光学設計について高田大樹君が修士論文をまとめました。(打ち合わせ資料は こちら ただし関係者のみ)。
- 2014年度はすばる望遠鏡での多天体補償光学の実証試験 RAVEN がファーストライトを迎え、実際に試験観測を行いました。(打ち合わせ資料はこちら ただし関係者のみ)。
- SPIE Astronomy 2014 での発表の集録を作成しました。これまでの検討のまとめになっていますので参照してください。
- 2013年度はTMT戦略的基礎開発経費を用いた検討を行いました。(詳細資料は こちら ただし関係者のみ)。
- 2012年度はTMT戦略的基礎開発経費への応募の議論を契機に現状での実現性検討をまとめる方向で検討を進めています。トモグラフィーに関するシミュレーションの結果は大野良人君の修士論文にまとめられています。(全体のまとめページは こちら ただし関係者のみ)。
- 2011年度も基礎実験を進めました(まとめは こちら ただし関係者のみ)。
- 2010年度は引き続き実験を進めています(まとめは こちら 、ただし関係者のみ)。
- 2009年度は実際の要素技術の確立に向けた実験を始めました(まとめは こちら 、ただし関係者のみ)。
- 2008年度は合計7回の勉強会を行い(勉強会資料は こちら 、ただし関係者のみ)、装置の方向性の検討、開発技術の現状のまとめを行い、赤外線多天体補償光学系分光器という方向性を打ち出しました。まとめは2009年春の学会で報告しています。 PDF はこちら。
これらの開発研究は国立天文台ハワイ観測所、平成20-21年度東北大学若手飛躍・発展支援プログラム、平成22年度理学研究科若手研究者奨励基金、平成21年度国立天文台大学支援経費「委託研究」、平成22年度国立天文台共同開発研究、平成23年度国立天文台共同開発研究、平成24年度国立天文台共同開発研究、の協力・支援を受けて行われています。感謝します。
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