研究課題2
課題名
日本・米国双方独自の大マゼラン星雲広域探査データ:星からの物質放出モデルの飛躍的精度向上
概要
死にそうな星の研究
毎日変わらず光り輝いているように見える太陽ですが、実は今この瞬間も太 陽は年をとり続けていて、遠い未来には死んでしまいます。まぁ心配はいりま せん、数十億年先の話です。でも、私自身はせっかちな人間で、数十億年先に 太陽がどんな風に死ぬのか、今知りたいのです。数十億年も待てません。待てないならどうしたら良いでしょう?
人類にとって特別な星である太陽も、宇宙全体で考えるとごく平凡な、何処 にでも存在する星の一つです。現在、太陽のような星が沢山存在するならば、数十億年前に何か変な事が起こらなかった限り、数十億年前にも、太陽のような星は沢山存在していたと考えられます。つまり、探せば太陽より数十億年先に生まれ、現在は死にかけの状況になっているような星は沢山あると考えられます。そのような星を探し出し、どうなっているかを調べる事で、太陽の数 十億年先を予測する事ができそうです。
そこで私は大学院生の頃から、我々が住む銀河系のすぐ隣にある、大小マゼ ラン雲と呼ばれる銀河の中に、死にそうな太陽が無いか探して、その性質を調 べる研究を始めました。大小マゼラン雲は南半球からしか観測する事が出来ないため、大学院生の頃より現在まで約10年の間に、のべ約2年弱程南アフリカ共和国の天体観測所に滞在して観測を行いました。死にそうな星は、人間の目で見える可視光線では暗く、赤外線で明るくなるという性質があるので、赤外線を見る事ができる特別な装置を使うと容易に探し出す事ができるのです。
10年間にもわたる赤外線での観測は世界に類が無いため、ユニークなデータが得られました。そのため、世界中の研究者から共同研究の申し出がありま す。その中から、頭脳循環プログラムを通じて米国の宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のマーガレット・マイクスナー博士と共同研究を行う事にしました。彼女は米国が打ち上げたスピッツァー赤外宇宙望遠鏡を用いて大小マゼラン雲 を観測した大計画の責任者であり、彼女が持つデータと私が持つデータをうまく組み合わせる事で、星が死ぬ間際に引き起こす質量放出と脈動の関連性と いった、様々な未解決問題に迫る事が期待できます。また、斉尾英行教授と学生の高山正輝君には、観測結果を物理的に解釈して説明するために理論面からのサポートをして頂ける事になっています。
このような恵まれた研究環境を提供してくれた頭脳循環プログラムに感謝しつつ、こちらの研究者から刺激を受け、最終的に多くの未解決問題を解決する事ができればと思っています。
東北大学大学院理学研究科天文学専攻 助教 板 由房