1 運動方程式、角運動量保存

原子核による電子の散乱を考える。 陽子は電子よりも約1840倍質量が重いので、原子核は静止しているものとする。 電子の運動方程式は、

$\displaystyle m_e\di{v_x}{t} = -\frac{Ze^2 x}{r^3},\quad m_e\di{v_y}{t} = -\frac{Ze^2 y}{r^3}$ (1)

と書ける。無限遠方での電子の初速を$ V_0$、衝突パラメータを$ b$とする。中心力場中での運動であるので角運動量は保存される。 極座標表示を用いて粒子の位置を表すと、方位角$ \varphi$の運動方程式は角運動量保存を用いて

% latex2html id marker 403
$\displaystyle m_e r^2\dot{\varphi} = - m_e V_0 b, \quad \therefore\, \di{\varphi}{t} = -\frac{V_0 b}{r^2}$ (2)

となる。散乱角を$ \theta$とすると散乱後の漸近的速度は $ (v_x,v_y)=(V_0\cos\theta, -V_0\sin\theta )$と書ける。 Eq.(2)を用いてEq.(1)のx方向の運動方程式を$ t$の微分から$ \varphi$の微分方程式に書き換え、積分を実行すると、

% latex2html id marker 413
$\displaystyle \int_{V_0}^{V_0 \cos\theta} dv_x = \fr...
...c{m_e V_0^2 b}{Z e^2} = \frac{\sin\theta}{1-\cos\theta} =\cot{\frac{\theta}{2}}$ (3)

を得る。ここで入射電子の無限遠での角度は $ \varphi=\pm \pi$であり、散乱後は $ \varphi=-\theta$であることを用いた。 Eq.(3)より $ \theta\geq \pi/2$となるように強く散乱される場合は $ \cot(\theta/2)$が次図のような振る舞いをすることから、 $ \theta\geq \pi/2\to \cot(\theta/2)\leq 1$であり、このときの$ b,V_0$が満たすべき条件は以下のようになる。

$\displaystyle b \leq \frac{Ze^2}{m_e V_0^2} ;\quad m_e V_0^2 \leq \frac{Ze^2}{b}$ (4)

図: $ y=\cot(\theta/2)$
\includegraphics[width=8.77truecm,scale=1.1]{cot.eps}

また$ b \to 0$の極限では

% latex2html id marker 439
$\displaystyle \cot{\frac{\theta}{2}} =\frac{\cos\dfr...
...a}{2}} \to 0; \,\,\cos\frac{\theta}{2}\to 0 , \quad \therefore\, \theta \to \pi$    

となり、電子は元来た方向に跳ね返される。

著者: 茅根裕司 chinone_at_astr.tohoku.ac.jp