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3 結合エネルギー

さて原子核の結合エネルギー(binding energy)

$\displaystyle E_{\rm b} \equiv \left[ (A-Z)m_{\rm n} +Z m_{\rm p} -M_{\rm A Z}\...
...ght]c^2 =\left[ (A-Z)(m_{\rm n}-m_{\rm p}) + Am_{\rm p}-M_{\rm A Z} \right]c^2$ (7)

で定義する。 ここで $ m_{\rm n}$$ m_{\rm p}$ はそれぞれ中性子と陽子の質量である。 この $ E_{\rm b}$ の定義は原子核をばらばらの核子に壊すのに必要な最低限のエネルギーを表してる。 これを使って核子一個当たりの平均結合エネルギーを

$\displaystyle f =\frac{E_{\rm b}}{A}$ (8)

で定義する。

$\displaystyle m_{\rm p} c^2 = 938.27231 \pm 0.00028   [{\rm MeV}],\qquad m_{\rm n} c^2 = 939.56563 \pm 0.00028   [{\rm MeV}]
$

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$\displaystyle \therefore\,(m_{\rm n}-m_{\rm p})c^2= 1.29332 \,\,[{\rm MeV}],\quad M_{\rm u}\,c^2 = 931.47747 \,\,[{\rm MeV}]
$

であるから

$\displaystyle E_{\rm b}$ $\displaystyle = 1.29332 (A-Z) + 938.27231  A - 931.47747   A -\Delta M_{\rm A Z}  =8.08816  A -1.29332   Z - \Delta M_{\rm A Z} $    

となる。よって

$\displaystyle f=\frac{E_{\rm b}}{A} = 8.08816 -1.29332   \frac{Z}{A} - \frac{\Delta M_{\rm A Z} }{A}
$

と書ける。これを用い $ f$ を水素原子と $ A=2Z$ の原子核とについて計算し、 $ f$ を縦軸、 $ A$ を横軸としてグラフを書くと図1のようになる。 ちなみに$ Z$ が同じ元素を同位元素(isotope) 、$ A$ が同じ元素を同重元素(isobar)という。

図 1: 原子番号と核子一個当たりの平均結合エネルギーの関係
\includegraphics[width=7.77truecm,scale=1.1]{f0_10.eps} \includegraphics[width=7.77truecm,scale=1.1]{f10_62.eps}

1 例壱

四つの水素原子が反応を起こして一個のヘリウムになるとして発生するエネルギーを計算すれば、

$\displaystyle 4\cdot 7.28899-2.42475 \cong 26.73   [{\rm MeV}]
$

となるが、これを $ 4$ で割って核子一個当たりの値を求めると、 $ 6.68  [{\rm MeV}]$ である。 これはもともと核子一個の静止質量エネルギー $ 931.478  [{\rm MeV}]$ の約 $ 0.7\%$ である。

2 例弐

同様の方法で、 鉄 $ {\rm Fe^{52}}$ について、 最初 $ 52$ 個の水素原子が反応を起こして一個の $ {\rm Fe^{52}}$ になるとして核子一個当たりの発生エネルギーを求めると

$\displaystyle \frac{52 \cdot 7.28899 -(-48.3280) }{52} = 427.35548/52 \cong 8.22   [{\rm MeV}]
$

となる。これは核子一個当たりの静止質量エネルギーの約 $ 0.88\%$ である。

fat-cat 平成17年1月10日