*Signal-to-Noise ratio = S/N 比 [#od594667] ある天体から来る光子(フォトン)の数を数える事を考える。今、系統誤差が無視できるとすれば、光子の数を数える測定をする度に、その測定値には偶然誤差(=ランダムノイズ)がのる。天体から単位時間あたり$C$個の光子がやってきているとすると、時間$t$の間に「天体から」来る光子の数$S_{in}$は、 \begin{equation} S_{in} = C t \end{equation} とかける。背景光の寄与等は、今は無視した理想的な状態を考えている事に注意。 $S_{in}$がポアソン分布に従うとすると、その計測誤差(ポワソンノイズ)$N_{in}$は、 \begin{equation} N_{in} = \sqrt{S_{in}} = \sqrt{C t} \end{equation} である。Signal to Nose ratioは、天体から来た光子(シグナル)のうち、どれだけの割合が計測誤差(ノイズ)なのか、という事を表していて、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{in} = \frac{S_{in}}{N_{in}} = \frac{C t}{\sqrt{C t}} = \sqrt{C t} \end{equation} となる。例えば、光子が100個入ってきたら、そのポワソンノイズによる計測誤差は$\sqrt{100}=10$個であり、S/N比は$100/10=10$となる。 次に、光子を検出器で数える事を考える。 量子効率を$Q$とする。 ポワソンノイズの所でも議論したとおり、光子が検出器に当たり光電効果という確率過程を経て電子が出てきて、その出てきた電子の 個数の平均を観測しているのであるから、$Q$を掛けて光子数ではなく電子数にした数もまた、ポワソン分布に従う。 個数の平均を観測しているのであるから、&color(red){$Q$を掛けて光子数ではなく電子数にした数もまた、ポワソン分布に従う。}; 従って、検出器によって数えられる電子の数のS/N比は、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{electron} = \frac{Q C t}{\sqrt{Q C t}} = \sqrt{Q C t} \end{equation} となる。 上式を使って整理すると、 \begin{equation} Q = \frac{ \left( \frac{S}{N} \right)_{electron}^2 }{ \left( \frac{S}{N} \right)_{in}^2 } \end{equation} となる。この式は、検出器の量子効率を求める時に利用できる。 *Signal-to-Noise ratioの悪化 [#va9810d3] これまでは、天体の明るさを測った時のポワソンノイズ=フォトンショットノイズのみを議論してきた。 しかし、観測装置には天体からやってくる光に依存するフォトンショットノイズの他にも様々なノイズ源がある。以下に代表的な物を示す。 以下の議論では検出器のゲインを$G$とする。ゲインとは、何個光子が入って来た時に、何ADUとして検出されるかを決める比例定数。 CCD等を用いてデータを取得した結果得られる画像はこのAstronomical Data Unit(ADU)単位になっている(物しか板は知らない)。 $G$を掛ける事は確率過程を経る事では無いので、$G$を掛けてADU単位にした数はポワソン分布には従わない事に再注意。 $G$を掛ける事は確率過程を経る事では無いので、&color(red){$G$を掛けてADU単位にした数はポワソン分布には従わない};事に再注意。 以下観測の結果ADU単位で得られた数にoutという添え字をつける。 **フォトンショットノイズ(天体からのシグナルに依存):$N_s$ [#h81b3f42] \begin{equation} N_s = G\sqrt{Q C t} \end{equation} である。 フォトンショットノイズが支配的な時は、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} = \frac{G Q C t}{G \sqrt{Q C t}} = \sqrt{Q C t} \end{equation} となる。 **バックグランウドショットノイズ(天体からのシグナルに無関係):$N_b$ [#da944844] 天体からの光に関係ない背景光、例えばスカイによって発生するノイズで、 \begin{equation} N_b = G\sqrt{Q C_b t} \end{equation} である。$C_b$は、単位時間あたりバックグラウンドから来る光子の数である。 バックグラウンドショットノイズが支配的な時は、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} = \frac{G Q C t}{G \sqrt{Q C_b t}} \end{equation} となる。 **ダークショットノイズ(天体からのシグナルに無関係):$N_d$ [#b5a4ebc2] 検出器が持つ熱によって発生する光子によるノイズで、 \begin{equation} N_d = G\sqrt{Q C_d t} \end{equation} である。$C_d$は、単位時間あたりに発生する熱雑音光子の数である。 ダークショットノイズが支配的な時は、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} = \frac{G Q C t}{G \sqrt{Q C_d t}} \end{equation} となる。 **リードアウトノイズ(天体からのシグナルに無関係):$N_r$ [#k79ba983] 検出器を読み出すときに発生するノイズで、読み出し雑音とも言う。露出時間に関係なく1ピクセルあたり$R$個の電子の揺らぎが乗り \begin{equation} N_r = G R \end{equation} である。ここでRと言っているのは読み出し雑音の期待値がRなのではなく(0である)、標準偏差(誤差)が$R$、すなわち分散が$R^2$という意味である。 リードアウトノイズが支配的な時は、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} = \frac{G Q C t}{G R} \end{equation} となる。 *総ノイズ [#tcbec748] 総ノイズ$N_{total}$を考える場合は、誤差伝播を解いて、 \begin{equation} N_{total}^2 = N_s^2 + N_b^2 + N_d^2 + N_r^2 ... \end{equation} と言う具合に、&color(red){全てのノイズ源からの寄与を足し合わせ};て、最終的なS/Nは、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} = \frac{S_{out}}{N_{total}} \end{equation} と考えなければならない。 *S/N比を上げるには? [#d4651f83] S/N比を上げる事は、誤差の少ない良いデータを得る事に相当する。 S/N比を上げるにはどうしたら良いだろうか?まずはノイズを減らせば良い事は誰でもわかる。 だが、フォトンショットノイズは天体の明るさに依存するので、これは減らそうにも減らせない。 ではどうすればよいだろう? 上で出てきた式全てに共通して言える事は(リードアウトノイズは除く)、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} \propto \sqrt{t} \end{equation} という事である。従って、例えばS/Nを2倍にしたければ、積分時間を4倍にしてやればよい事がわかる。 積分時間を4倍にできない場合(サチってしまう場合)は、同じ積分時間のデータを4枚取って平均値を計算すればよい。 ランダムノイズなので4枚の平均値であればノイズは$1/\sqrt{4}$になるはずである。 更に、繰り返しになるかもしれないが、おおよそ、 \begin{equation} \left( \frac{S}{N} \right)_{out} \propto \sqrt{S} \end{equation} である事から、とある天体のS/NがAだった場合、その天体の4倍明るい天体は、S/Nが2倍の2Aである、という事もわかる。 明るい天体に対してはノイズの少ない良いデータを得る事ができる事がわかる。 *S/N比と等級の関係 [#r0d59fe4] 等級の定義は、 \begin{equation} m = -2.5 \log \frac{f}{f_0} + \textrm{Const} \end{equation} であった。この式で、天体から来る光、すなわち$f$に計測誤差が含まれた場合、等級スケールでの誤差$\sigma_m$を考える。 \begin{equation} m = -2.5 \log \frac{f}{f_0} + \textrm{Const} = -2.5 \left( \log f - \log f_0 \right) + \textrm{Const} = -2.5 \left( \frac{\ln f}{\ln 10} - \frac{\ln f_0}{\ln 10} \right) + \textrm{Const} \end{equation} で、 \begin{equation} \frac{\partial m}{\partial f} = \left( \frac{-2.5}{\ln 10} \right) \frac{1}{f} \end{equation} であるから、 \begin{equation} \sigma_m^2 = \left( \frac{\partial m}{\partial f} \right)^2 \sigma_f^2 = \left(\frac{-2.5}{\ln 10}\right)^2 \left(\frac{\sigma_f}{f} \right)^2 = (1.0857)^2 \left(\frac{\sigma_f}{f} \right)^2 \end{equation} となる。よく見ると、$\frac{\sigma_f}{f}$の部分は、S/N比の逆数そのものである。よって、 \begin{equation} \sigma_m = 1.0857 \times \frac{1}{\left( \frac{S}{N} \right)} \end{equation} と書く事ができる。従って、例えばS/N比が10の天体があった場合、その等級スケールでの誤差は、$\sigma_m = 1.0857/10 \sim 0.1$等、という事になる。S/N比が100だったら、誤差は約0.01等という事と同義である。