a講演
銀河01a 02/Aug 9:00-9:15
阿部 牧人 筑波大学 M1 紫外線輻射場中での球状星団の形成
球状星団は古い星から成るコンパクトな恒星系で,最近の観測から,形成においては大質量による紫外線の影響を受けたことが予想されている.
速度分散σ*と光度Lの関係は,観測からσ*∝L^{1/2}という相関が得られており,これまでに多くの球状星団形成のシナリオは考えられてきたが,
この関係はうまく説明されなかった.
今回は,この問題を解決するために提唱された紫外線輻射場中の球状星団モデル(Hasegawa et al. 2009)について紹介する.
シミュレーションにおいて,バリオン(cloud),ダークマターは球対称として扱い,紫外線の輻射輸送を解いてcloudの自己遮蔽を計算している.
また,自己遮蔽により形成された星のダイナミクスについても調査している.
結果として,紫外線輻射場中での球状星団をはじめとしたsubgalactic objectsの進化はprompt/delayed star formation,supersonic infallの3タイプとなることがわかった.
最後のタイプは新しいシナリオで,超音速でcollapseした電離ガスがコンパクトなコアを作り,紫外線から自己遮蔽して星を形成するというものである.
このシミュレーションの結果は,質量光度比,半質量半径,速度分散の観測結果とよく一致した.
銀河06a 02/Aug 9:45-10:00
服部 公平 東京大学 D1 太陽近傍のハロー星の離心率分布から探る銀河系形成史
銀河系ハローは近似的に無衝突系であり、銀河系が形成された時点の情報が、
現在観測される星の運動に刻印されていると考えられている。
特に、ハローの星の軌道離心率は断熱不変量とみなせるため、
これを利用して銀河系ハローの形成シナリオを制限する試みが過去半世紀にわたって続けられてきた。
現在では、SDSSをはじめとする大規模サーベイによって太陽近傍の1万を超えるハローの星の運動データが得られるようになっている。
ところが、観測によって得られた離心率の分布をどのように解釈すべきかについての理論的研究は殆ど未開拓であった。
そこで我々は球対称なハローのモデルを用いて離心率分布を理論的に求めることで、観測データを解釈する手法を考案した。
我々の計算結果を利用して実際にSDSSのデータを解釈したところ、
銀河系ハローが形成時に10kpc程度以下のスケールでviolent relaxationを受けた可能性が示唆された。
本講演ではこれらの結果について報告する。
銀河07a 02/Aug 10:00-10:15
清水 貴治 東京大学 M1 A new method of determining the pattern speed of the Large Magellanic Cloud
銀河は宇宙を構成する基本的な物質であると考えられる。
なかでも多くの銀河は円盤状の構造を持っており、銀河円盤は複雑な力学構造を持っている。
銀河円盤がどのように、どうやって今日の形状となるかは天文学の大きな問題の一つである。
そして近年、銀河の構造を研究する上で、個々の物質が作るパターンそしての回転角速度、
パターン速度とよばれるパラメーターが非常に重要になっている。
しかし、このパターン速度は実際の物の速度ではないため観測から直接決定する方法がなく、
どの手法も仮定に基づいて決定されていた。
これらの方法では、LMC(大マゼラン星雲)のような円盤状ではっきりとした棒状構造を持っているが星生成が活発な銀河では適用することができなかった。
そこで本研究では非軸対称の棒状のポテンシャル仮定し、
動力学的に導かれる特徴を見いだすことで、LMCの複雑な星生成領域に対し初の解釈を与えた。
そしてこのことから観測結果とも矛盾のないパターン速度を決定することに成功した。
銀河08a 02/Aug 10:15-10:30
林 航平 東北大学 M2 Non-spherical Mass Models for Dwarf Satellites
銀河系に付随する伴銀河としての矮小銀河は表面輝度が小さく、質量-光度比が10〜1000と他の銀河に比べて非常に大きい。
これはダークマターが支配的であることを示している。
したがって、ダークマターの基本的な性質を研究する上で非常に理想的な天体である。
これまで行われてきた、Cold Dark Matter(CDM)理論に基づく階層的構造形成シミュレーションではCDMハローやそれに付随するCDMサブハローの形状は球対称ではなくtriaxialであることが分かっており、この結果はCDMの階層的進化の影響を良く反映している事も分かっている。
よって、ハローの形状がどのようになっているかを明らかにする事は、
銀河の形成と進化を知る上で非常に重要な物理情報であることがわかる。
一方、矮小銀河を用いたCDMへの観測的制限には、星の視線速度分布を用いるのが一般的である。
しかし、先行研究ではハローの密度分布や恒星系の密度分布が球対称のみのモデルでしか解析が行われていない。
したがって、ハローの形状に対する制限を与えるには非球対称な質量分布のモデル構築が必須である。
そこで、私たちは軸対称ジーンズ方程式に基づく軸対称密度分布モデルを構築し、ハローの形状に対する議論を行った(Hayashi & Chiba in prep)。
すると、ハローは球対称ではなく、形状に対してある一定の制限を与えられることがわかった。本講演ではこの詳細を発表する。
銀河09a 02/Aug 10:30-10:45
坂井 伸行 総合研究大学院大学 D1 VERAを用いた銀河系外縁部回転曲線の構築II:ペルセウスアームに顕著に見られる非円運動
[研究目的] 銀河系の質量分布を明らかにし、銀河系の力学、構造、そして進化を考える上での基本的な物理量を取得したい。
しかし銀河系の質量分布を求める為の回転曲線は、距離の不定性により未だ正確に求められていない。
[研究方法] VERAと言う電波干渉計4局を用いたVLBI観測はこの距離の不定性を克服できる。VERAは目標位置精度10マイクロ秒角を誇り、
10kpcの距離を10%のエラーで測る事を旗印に銀河系全体の位置天文観測を推進している。
私はVERAを用い、2009年から現在まで10天体の観測を継続している。
[研究結果] 10天体中1天体(IRAS 05168+3634)の観測結果については、2010年の夏の学校で発表した。本発表では、
(i)IRAS 21379+5106の観測・解析状況、
(ii)観測結果の局在化(R$\sim$8-10kpc)、
(iii)IRAS 05168+3634の結果を含む、ペルセウスアームの顕著な特異運動(非円運動)
について発表し、VLBAと並び現時点で世界最高精度の回転曲線の結果を紹介する。
銀10a 02/Aug 10:30-10:45
南原 甫幸 北海道大学 M1 The distribution of maser stars in the inner Milky Way:the effect of a weak rotating bar
本講演は発表タイトルの論文(Habing, et al., 2006) のレビューである。
電波の通過する領域の影響から、放射強度が増幅される現象(メーザー)が生じる分子がある。
Elld$\acute{\mathrm{e}}$r, et al. (1969)は天の川に、この現象を引き起こす複数のメーザー源があることを発見した。
この発見は、天の川をサーベイすることが天の川銀河内部にあるメーザー天体の分布を得られる可能性をもっていることを予期させていている。
天の川の一部に対してのOH輝線探査(Bower, 1978, Band, et al., 1981)が行なわれ、
その結果200近くのメーザー天体が発見された。さらに、これらは薄い回転ディスクを形成しているように見えることが分かった。
OH輝線以外にものメーザー現象起こす分子として、
H_2O(Knowles, et al., 1969)やSiO(Kaifu, et al., 1975)等が発見されている。
この論文では、天の川銀河のOHとSiOのサーベイで得た銀経-視線速度図(lv-diagrams)からメーザー天体の分布を導いている。
銀河12a 02/Aug 11:00-11:15
榎本 潤次郎 北海道大学 M1 円盤銀河内の巨大分子雲の形成と進化
銀河系ハローは近似的に無衝突系であり、銀河系が形成された時点の情報が、
現在観測される星の運動に刻印されていると考えられている。
特に、ハローの星の軌道離心率は断熱不変量とみなせるため、
これを利用して銀河系ハローの形成シナリオを制限する試みが過去半世紀にわたって続けられてきた。
現在では、SDSSをはじめとする大規模サーベイによって太陽近傍の1万を超えるハローの星の運動データが得られるようになっている。
ところが、観測によって得られた離心率の分布をどのように解釈すべきかについての理論的研究は殆ど未開拓であった。
そこで我々は球対称なハローのモデルを用いて離心率分布を理論的に求めることで、観測データを解釈する手法を考案した。
我々の計算結果を利用して実際にSDSSのデータを解釈したところ、
銀河系ハローが形成時に10kpc程度以下のスケールでviolent relaxationを受けた可能性が示唆された。
本講演ではこれらの結果について報告する。
銀河13a 03/Aug 11:30-11:45
安井 一樹 京都大学 M1 中間赤外域でのYoung Stellar Object探査で探る銀河系中心400pcの星形成
本講演は
Star Formation in the Central 400pc of the Milky Way: Evidence for a Population of Massive Young Stellar Objectsのレビューである。
銀河系中心約400pcにはCentral Molecular Zoneと呼ばれる領域があり、
周囲の環境と違って大量の星間物質が存在することが知られている。
この領域は他の分子雲に比べて高温(75-200K)なので星形成は起こりにくいが、
高密度(>10^4(cm^-3))のために星形成をしていると思われる。
しかし、このような環境でも他の領域と同様の星形成をしているのかどうかはまだよく分かっていなかった。
この研究では中間赤外線観測で銀河系中心400pcにあるYoung Stellar Object (YSO)の探査を行っている。
それによって多くのYSO候補が見つかり、その結果と多波長のデータから星形成率を見積もると、
銀河系中心付近では10万年前に大質量星が形成された時期があった。
また星形成率とガス密度の相関を表すSchmidt-Kennicutt則と照らし合わせて、
銀河系中心領域も他の領域と同様の星形成を示すことが分かった。
銀河14a 03/Aug 11:45-12:00
橋場 康人 東京大学 M1 Local star formation histories in nearby galaxies
近年、SDSS(Sloan Digital Sky Survey)のような大規模サーベイが行われるようになり、
大量の銀河の情報が手に入るようになった。そして、それら大量の情報から、
一つ一つの銀河を銀河全体の光を集めた情報で扱うことにより、さまざまな銀河の統計が調べられるようになった。
しかし、同じ銀河内でどれだけ性質がばらついているかを統計的に詳しく調べる研究は、あまり行われていない。
例えば、渦巻銀河では、バルジとディスクでは星生成史が違うことはよく知られている。
また、密度波理論によると、渦巻腕には重力ポテンシャルの谷があり、そこではガスが圧縮され、星生成が起こるため、
星生成が始まってからの時間に従って、
渦巻腕の内側から外側に向かって新しい星からより寿命の長い星までが並ぶ構造をもつことが予言されている。
そのため、近傍銀河を用いて、銀河内部の星生成史のばらつきを調べることは、大変重要な研究である。
本講演では、近傍の渦巻銀河をSDSSの5バンド(u,g,r,i,z)を用いて解析を行った結果について報告する。
銀河15a 03/Aug 12:15-12:30
林 隆之 東京大学 D1 銀河とAGN共進化の研究へのVLBIの貢献可能性を考える
マイクロ秒角の高分解能を持つVLBIは輝度温度に対する感度が低く観測対象が限られている。
例えば,連続波ではAGNジェットなどの非熱的放射を示す天体,ラインでは星形成領域などのメーザー天体などである。
また,VLBIの分解能は他波長の観測スケールと極端に違うため,サイエンスの連携も一部に限られる。
全ての銀河には巨大ブラックホール(BH)が存在し,銀河の宇宙論的進化に影響を与えている。
バルジ質量とBHル質量には相関があることから,質量の降着と放出を通じて,BHを保持するAGNと銀河は相互作用しているとされる。
「キワモノ」であるVLBIはこの分野にさほど貢献できていなかったが,それは貢献不可能を意味するだろうか?
一見,AGNを持たないような星形成銀河にも「埋もれたAGN」が存在し,質量降着の進んだ段階でフィードバックが働き,
星形成が抑制されクェーサーへ進化すると考えられている。
VLBIを利用すれば高輝度電波源を直接的に検出でき「埋もれたAGN」の探索が可能である。
また,フィードバックの担い手と考えられているクェーサーアウトフローとAGNジェットの活動には逆相関の関係が示唆されており,
フィードバックの理解にVLBIが貢献できる可能性がある。
本講演では,VLBIの原理や主要サイエンスをレビューし,
講演者の取り組んでいる「埋もれたAGN」とクェーサーアウトフロー天体の研究についての展望も述べる。
銀河23a 03/Aug 16:15-16:30
今瀬 佳介 総合研究大学院大学 D1 近赤外Pa α輝線を用いて探る近傍AGNのブラックホール質量
活動銀河中心核(AGN)の中心BHの質量は現在可視・UVの分光観測で求められているが、この方法にはダスト減光の影響が大きく、
主に用いられるHα輝線, Hβ輝線には共にブレンドが確認されていることなどから不定性が存在する。
こうした状況において、赤外線の波長域は減光の影響が少なく、
特にPa α(1.857μm)輝線は近赤外の波長域では最も強いことに加え、
ブレンドが存在しないためBHの質量を探る上で最適な輝線であると考えられる。
Pa αは静止波長では大気吸収の影響を大きく受けるが、
本研究では赤方偏移の範囲を選択することによってKバンドにおいて観測することを実現した。
また現在では半数以上のAGNはダストの向こう側にあると考えられている。
本研究のようにPa αを用いれば、既存の方法とは違いこのようなAGNについても適用が可能であると考えられる。
そこで我々は今回NASA、IRTF望遠鏡のSpeX分光器を用いて近傍PG QSOのうち21天体に対してKバンドでPa α輝線を観測した。
そして全天体に対して過去の文献よりHβ輝線のデータを取得し、2つの輝線のフラックス比、
およびプロファイルの違いを調べた。またPa αを用いて新たにBH質量を計算し、過去の結果との比較も行った。
今回の講演では本研究の現在までの進捗状況、および今後の展望について述べる。
銀河24a 03/Aug 16:30-16:45
矢野 健一 東京大学 M1 Detection of optically elusive buried AGNs in ULIRGs wit AKARI IRC 2.5-5 μm spectroscopy.
Ultra-Luminous InfraRed Galaxie(ULIRG)は$L_IR > 10^12 L_◉で定義される赤外線で非常に明るく輝く銀河であり、
このエネルギー源が星形成と活動銀河核 (AGN) どちらなのかを分類することは重要なトピックとなっている。
Imanishi et al. (2008) は、
近傍 (z<0.3) の45個のULIRGに対してAKARI IRCによる近赤外 (2.5-5 $\mu$m) スペクトル解析を行い、
PAH 3.3μm輝線及び3-4μmのダスト吸収の特徴から、可視光の観測では星形成銀河と分類されたもののうち約半分に、
ダストに埋もれて隠されたAGNを持つ兆候があることを見出した。
本講演ではまずこの論文の紹介をした後、この結果を背景としてこれから私が行おうとしている、
これら隠されたAGNを持つULIRGにおける星形成率 (SFR) の推定法について議論する。
2.5-5μm のスペクトル解析では上記のPAHなどの他に、
水素原子の再結合輝線Br α、Br βも観測することができる。
この2つの強度比から減光率A_Vを求め、本来の再結合輝線の強度を推定して電離に必要な全紫外線量を計算することで、
SFRを見積もることができると考えている。
銀河27a 03/Aug 16:45-17:00
中禮 沙也加 東京工業大学 M1 赤外線天文衛星「あかり」を用いた宇宙の星形成史の解明
活発な星形成銀河の大半が、塵(固体微粒子)の雲に覆われていると言われている。
この場合、可視光では星の周囲の塵に吸収されてしまい、正確な光度が分からない。
しかし、可視光によって温められた塵は、赤外線で強く光っている。
つまり、赤外線で銀河を観測することで、正確な宇宙の星形成史を解明できる。近年の遠方銀河の研究により、
今から70-90億年昔の宇宙では、現在の約30倍星形成が活発に行われていたことが示唆されている。
今回、私は「あかり」による北黄極領域のディープサーベイデータを用いて、この時代の宇宙の星形成史を明らかにすることにした。
このような研究を行う場合、まず銀河の正確な距離を決定する必要がある。
そこで、「あかり」で検出されている銀河のうち、これまで赤方偏移の知られていないものについて、
地上望遠鏡により可視光スペクトル線分光観測を行うことにした。測光学的な赤方偏移推定と比較して、
より正確な銀河までの距離決定が、可視光スペクトル線分光観測により得られるからである。今後、
「あかり」と地上望遠鏡から得られた様々な多波長情報を組み合わせることで、70-90億年前の星形成史を明らかにしていく。
銀河28a 03/Aug 17:00-17:15
桜井 茜 名古屋大学 M1 AKARIでみた近傍銀河における星形成率とダスト減光率に関する研究
銀河は長い宇宙の歴史の中で化学組成を変化させる。これを銀河の化学進化と呼ぶが、
この化学進化と銀河を構成する星の形成には密接な関係があり、
銀河内の星形成に関する量を正確に評価することは非常に重要である。
銀河の中では、形成された大質量星から紫外線が放射される。また星形成に伴って、まわりにダストが形成され、
ダストにより紫外線が吸収を受け中間-遠赤外線で再放射される。
本研究では星形成に関わる紫外線、赤外線の2つの量から(1)銀河の星形成率、(2)銀河のダストによる減光率を調べた。
解析には、紫外線衛星GALEXと赤外線衛星AKARIの撮像データを用いた。
観測データから、遠紫外線および全赤外線の光度($L_FUV, L_dust)を計算し、
(1)(2)の結果を求めた。これらの結果はダストに関する量が効いており、
星形成に関連した量を見積もるときにはダストの影響を十分に考慮する必要があることがわかった。
先行研究でも主張されていたが、AKARIおよびGALEXの全天探査による大サンプルで精度よく確かめられたことは大きい。
発表ではこれらの結果と物理的な解釈についても延べる。
銀河32a 03/Aug 17:15-17:30
大野 純 筑波大学 M1 GPUを用いた天文数値シミュレーション
GPU(Graphics Processing Units) は本来コンピュータ上での画像処理を専門に行うハードウェアであったが、
近年になってその演算性能をそれ以外の目的で用いる
GPGPU(General Purpose computing on GPU) として数値計算を高速に行う上で非常に強力な手段となっている。
通常のCPU とその演算性能を比べてみると倍精度浮動小数点演算では、
CPU(Intel Core i7 2600k、¥25,000) = 108GFlops, GPU(NVIDIA GTX580、¥60,000 前後) = 500GFlops
となっていて、単純に見ればその理論演算性能は高々数倍の優位性しかない。
GPUがCPUに対して優れている点は、膨大な数のスレッドを効率よく並列計算を行えることである。
さらにメモリバンド幅についても CPU(Intel core i7)は 36GB/s、GPU(NVIDIA GTX580)は、
307GB/sと CPU の 10 倍近いメモリバンド幅を持つ。
本発表では、実際に GPU を用いて GPU が得意とする数値計算を実行し、その演算性能を調べた。
銀河37a 04/Aug 11:00-11:15
石川 寛 名古屋大学 M1 THE BARYONIC TULLY-FISHER RELATION
我々が住む天の川銀河のような円盤銀河には、円盤の回転速度vと光度Lの間にL∝v^α(α=3〜4)という関係がある。
これはTully--Fisher relation (以下TF relation)としてよく知られているが、
この関係の物理的基礎はまだはっきりと解明されていない。
銀河円盤の回転速度は、HIガスの放射するHI 21cm輝線のドップラー効果による輝線幅で測定することができる。
この値は銀河までの距離に依らないため、ここから推定される絶対光度と見かけの明るさから、
その銀河までの距離を見積もることができる。TF relationにおける全光度Lは、
すなわち銀河内の星の全光度だが、これは銀河内の総星質量に置き換えられると考えるのが自然である。
ところが、実際には問題が生じる。小質量の渦巻銀河や矮小銀河では、
星の質量に対してガスの質量の割合が無視できないため、
上記の関係が成り立たなくなってしまうのである。この問題に対してS. McGaughは、
星質量に銀河のガス質量を加えることで、低質量の銀河でも単一のべき関係が成り立つことを発見した(McGaugh 2000)。
この関係をbaryonic TF relationと呼ぶ。本発表では、まずこの論文の内容について紹介し、
さらにこの関係について最近の研究および将来展望を議論する。
銀河38a 04/Aug 11:15-11:30
篠木 新吾 東京大学 M2 z=5.7 protoclusters in SXDF
Subar/it XMM-Newton Deep Field (SXDF) で見つかったz = 5.7の銀河数密度超過領域、
すなわち原始銀河団 (protoclusters) の可視分光観測で得られたデータの解析結果を紹介する。
SXDFの可視 (R, i', NB816) の撮像データをもとに選択されたライマン・アルファ輝線銀河 (LAEs) のうち、
当該の原始銀河団に属すると予想されるものが Subaru/FOCAS で22天体分光観測されたが、
その後さらに精度の高い解析のために Keck/DEIMOS で追観測され、合計36天体の分光データが得られた。
これらのデータを解析することによりz = 5.7という原始銀河団の中でも最遠方のものの1つの銀河数密度、
銀河団全質量等を見積もることができる。
銀河39a 04/Aug 11:30-11:45
橋本 拓也 東京大学 M2 近赤外分光によるz〜2.2 Lyman Alpha Emitter(LAE)でのnebular emission linesの検出
Lyman Alpha Emitter(LAE)は遠方宇宙にあまねく存在する銀河種族の1つだ。
CDMモデルによれば、小質量銀河は、より大きな天体のbuilding blockになると考えられている。
LAEは星質量にして〜10^8M_◉と他の遠方銀河種族に比べて質量が小さいことからbuilding blockの候補天体だと考えられており、
この天体の性質を理解する事は重要だ。
静止系可視域のnebular emission linesは、銀河の物理的性質を知る上で極めて有用だが、
LAEは暗いために、わずか4天体でしか分光検出されていない。
そこで我々は、チリにある6.5mマゼラン望遠鏡の多天体近赤外分光装置MMIRSを用いて、
有望なz〜2.2 LAEを観測した。z〜2.2の銀河は地上からLyαを観測出来るばかりでなく、
物理量を得るのに重要なHαまで近赤外線波長域で観測出来るという利点がある。
この観測で我々は、計3天体のnebular emission linesの分光検出に成功した。
最初の2天体は、既にLyαも検出されている。前述したように、
これまでLAEのnebular emission linesの分光検出に成功した例は計4天体であり、
我々の観測ではこの数をおよそ倍増させることに成功した。
この結果を用いて、これまで充分な理解のなかった、
LAEにおけるInter Stellar Medium(ISM)の運動に対して制限を付けた。
さらに、ISMの運動と様々な物理量との相関を調べ、初めてLAEにおけるISMの運動について統計的な議論をした。
銀河42a 04/Aug 11:45-12:00
西田 瑛量 東京大学 M1 X線観測による銀河団の重力ポテンシャル形状の推定
X線の撮像分光観測を行なうと、高温プラズマの静水圧平衡を仮定することにより、
銀河団の重力ポテンシャル形状を推定することができる。
こうして推定されたポテンシャル形状は、大まかには、
等温自己重力系の近似解であるKingの近似式に合っている。
しかし、Peruseus銀河団やCentaurus銀河団、A1795といった銀河団の観測から、銀河団の中心100kpcより内側の領域で、
King解より深いポテンシャルを持つという観測結果が知られていた。
この結果に対し、二つの解釈が提案されている。
一つはN体計算にもとづく解釈で、ダークマターが中心に強く集中し、
ポテンシャルが深くなるよう寄与するというものである(Navarro, Frenk & White 1997)。
もう一つは、King解による典型的な銀河団中の質量分布に加えて、中心銀河に付随する質量分布が存在し、
全重力質量が2つの空間スケールで階層的に分布するとする見方である
(Ikebe et al. 1996; Xu et al. 1998; Makishima et al. 2001)。
中心銀河に付随する質量は、バリオンの寄与をかなり含む可能性がある。
これらの解釈の概要とその比較、またこれからX線天文衛星「すざく」を使ってどう研究を進めていくかについて、
本発表で紹介したい。
銀河43a 04/Aug 12:00-12:15
黒川 拓真 東京大学 M1 銀河団の宇宙論的シミュレーション
宇宙論および宇宙物理学において銀河団を研究する意義と、
数値シミュレーションによる銀河団の形成・進化に関する研究の近年の進展について論文をもとに紹介する。
銀河団を研究する意義として宇宙論への応用がある。銀河団内の重力場は主にダークマターが支配している。
銀河団の重力レンズを観測することで銀河団内の質量分布が求まり、ダークマターの分布を直接測定することが可能となる。
さらに宇宙の大規模構造形成のN体シミュレーションにおいて、複数の宇宙モデルでの銀河団の進化の違いを観測と比較することで、
宇宙に存在するダークマターやダークエネルギーの量に制限を与えることができる。
銀河団を研究するもうひとつの意義は、銀河団の形成・進化についての理解である。
銀河団は多波長にわたる豊富な観測データが存在し、
また重力が支配的であるために銀河のような複雑な過程を含むより小さなスケールの天体に比べ扱いが簡単である。
重力だけを考えた簡単なモデルでもシミュレーションは多くの観測事実を再現しているが、
銀河団中心の温度が観測を再現できないといった課題も残されている。
これを解決するために何らかの加熱または冷却過程を加えたより複雑なモデルの作成、
数値計算スキームの開発が行われ観測結果の再現が試みられてきた。
以上のような点について理論モデル、数値シミュレーション、観測との比較といった観点からこれまでの進展を紹介する。
銀河44a 04/Aug 12:15-12:30
市川 和也 東京理科大学 M1 「すざく」衛星によるAbell 1835 銀河団の外縁部の研究
銀河団は、重力的に緩和した宇宙最大の天体で、暗黒物質のポテンシャルにより束縛されている。
銀河団の形成や力学的進化は、宇宙年齢と同程度のタイムスケールであり、暗黒物質による重力が重要な役割を果たしている。
冷たい暗黒物質(CDM)モデルに基づく階層的構造形成によると、銀河団の外縁部では現在も銀河団の重力場にひかれて、
大規模構造のフィラメントに沿って質量降着流が起きていると考えられている。
銀河団の外縁部のX線輝度の低い領域も、安定した低いX線バックグラウンドを持つ「すざく」衛星により観測することで、
銀河団の形成現場を解明できる。
今回我々は、Abell1835銀河団(kT=8keV, z=0.253)を「すざく」衛星を用いて4ポインティング, 計200ksの観測を行った。
Abell 1835銀河団は質量集中度が低いことから、銀河団の核がより最近にできたと考えられる。
我々はSDSSデータを用いて、南方向に銀河分布のフィラメント構造を発見し、
ビリアル半径までのX線放射を検出することができた。また、ガス温度は中心部から外縁部まで低下しており、
フィラメント方向である南方向では輝度が他の方向に比べ高い傾向がみられた。
点源やバックグラウンドの差し引きによる系統誤差を詳細に評価し、エントロピーと静水圧平衡についての議論も行う。
銀河45a 04/Aug 12:30-12:45
佐々木 亨 東京理科大学 M1 NGC5044銀河群におけるガスの鉄の半径分布
銀河群及び銀河団は宇宙年齢をかけて天体であり、数千万度の高温ガスがX線を放射している。
そのため、銀河群や銀河団のX線観測を通じて宇宙のバリオンの歴史を調べることができる。
これまでに、銀河群においては銀河団と比べてガスに含まれる鉄の質量と銀河光度の比が系統的に小さいことが指摘されてきた
(Makishima et al. 2001)。
これは銀河群の中心領域にガスが少ない傾向があることを反映している。
NGC5044銀河群は中心に巨大楕円銀河を持つほぼ球対称で大規模な銀河群である。
過去にすざく衛星を用いて中心領域が詳しく調べられている(Komiyama et al. 2008)。
しかし、低輝度領域のガスの分布やアバンダンスを調べるための半径の大きな領域の観測はまだなされていなかった。
そこで我々はすざく衛星の低く安定したバックグラウンドと低エネルギー側での優れたエネルギー分解能を生かし、
外縁部の観測を新たに行った。
X線スペクトルの解析から、外に向かってガスの温度、鉄のアバンダンスともに中心から比べて減少していくことを確認した。
さらにガスに含まれる鉄の質量と銀河光度の比が中心部では上昇するものの、外側で銀河団より小さいということがわかった。
これは銀河群形成前の超新星爆発によってばら撒かれたガスを銀河群が集めきれずに広がっているためと考えられる。